監査法人勤務と企業内会計士の「働き方」

会計士の働き方(新人編) ~監査法人勤務と事業会社勤務の違い~

  • 内容
一昔前は会計士試験に合格すれば誰もが監査法人に就職しました。
しかし,今では監査法人の不景気もあり,事業会社に就職し活躍される方が増えています。
会計士側としては,監査法人と事業会社という二つの選択肢ができたことになりますが,
「働き方」にどんな違いがあるのでしょうか??
CPAキャリアではたくさんの事業会社勤務会計士の方々にインタビューをしており,
また,この記事をUPしているスタッフ側も監査法人勤務,事業会社勤務を双方経験しています。
今回は,朝日君(監査法人勤務),斉藤君(事業会社勤務)の二人の新人の1日を追っていく形式で
皆さんが知りたい「働き方の現実」をわかりやすくリアルに伝えていきます。
どうぞお楽しみ下さい!

  • 掲載雑誌

本稿は中央経済社発刊「会計人コース」さんでも紹介された記事です。
 会計人コース11月号 『どう違う?若手会計士の1日 監査法人勤務&企業内会計士』
どうぞご覧下さい!

 

会計人コース11月号バックナンバーはこちら

はじめに

公認会計士という仕事にどんなイメージを持っているでしょうか?公認会計士試験を勉強されている方は、監査論で習うような財務諸表の監査をイメージすると思います。一方で、会計業界ではない一般の人からすると会計・経理・税金に関する何かをやるというイメージです。

では、もう少し踏み込んで監査法人又は事業会社に就職して「働く事」をイメージするとどうでしょうか?両者ともに実際には何をしているのか?具体的なイメージを持てる方は少ないかもしれません。

今回は公認会計士の実際の「働き方」を知ってもらうため、二人のゲストをお呼びし、彼らの日常を追うことで働く事のイメージを強めていただこうと思います。

一人目は公認会計士試験合格後、監査法人に就職を果たした朝日君、もう一人は公認会計士試験合格後、監査法人に就職することができませんでしたが、先輩会計士の紹介で某東証一部上場企業の経理部に就職し企業内会計士となった斉藤君です。

今回は二人の入社4か月後の、とある一日の日常の「働き方」を追うことで公認会計士という仕事のイメージをクリアにしていきたいと思います。

朝日君(監査法人勤務会計士)と斉藤君(企業内会計士)の一日

AM 7:30

3月某日、そろそろ決算の準備を始めなければなりません。

朝日君の一日は今日の予定表を見るところから始まります。今日は横浜にあるA社に訪問し決算前の事前監査です。朝日君は埼玉県に住んでいるため、いつもより30分早く家を出なければなりません、さらにA社のチームは皆に恐れられる怖い先輩がいるため、朝から気が重い、しかし、今日だけ頑張ろう!そんな気持ちで朝日君は家を出発しました。

一方の斉藤君はいつもと変わらない朝を迎えました。特に仕事のことを考えることもなく、いつもの時間に家を出発、いつもの電車でいつもの駅へ、そして、いつものコーヒーを買って席に着きました。

<解説>

監査法人では複数のクライアントを担当し、複数の監査チームに所属しているため、勤務場所が色々で、直属の上司・先輩がたくさんいます。毎日が変化のある環境です。

事業会社では自分の座席をもち毎日その席で仕事をします。また、当然経理部の上司が毎日変わることはありません。数年は同じ上司の下で働くことになります。

AM 9:30

さあ、がんばろう!朝日君は席について早々に先輩に呼びつけられました。今日のヒアリング(質問)の準備はできているだろうな?そうです、朝日君は今日のヒアリングの準備のため昨夜も家で夜中まで準備をしていました。先輩からダメ出し(指摘・アドバイス)はたくさんされましたが、昨夜の努力の甲斐もあり先輩は納得した様子です。

一方の斉藤君は席についてメールチェックから仕事を開始します。開けた瞬間にメールが10通・・・昨日は早く帰ったため遅くまで仕事をしていた先輩からの大量のメールが送られてきています。

<解説>

監査法人ではノート型パソコンを貸与されるため、家に帰ってからメールチェックや仕事をすることができます。一方で事業会社ではデスクトップパソコンが主流ですので家に帰ってメールチェックや仕事をすることはほとんどありません。(最近はスマートフォン等でメールチェックはできますが)

AM 10:00

10時になりました。朝日君のヒアリングの時間です。別の会議室に案内されると4人掛けの机に既に5人が座っています。明らかに全員年上です。朝日君は、かなり緊張しながら固定資産担当の部長・課長・主任と名刺交換をしました。いつもの経理部の課長さんが今日の趣旨(固定資産の実在性を確認するため、固定資産購入時の注文書・請求書等を確認したいが、A社ではどのような書類を用いて管理しているかをヒアリングしたい)を説明し、「では朝日先生お願いします」と振られました。当初は、声が裏返っていた朝日君でしたが、昨日の準備の甲斐もあり徐々に落ち着きを取り戻し90分に渡って部長に質問を続け、固定資産の購買プロセスを完璧に理解してヒアリングが終了しました。

一方の斉藤君も会議に出席していました。予定されていた会議ではなく、先輩のところに突然営業部長がやってきて会計処理について相談をしたいとのこと、先輩と一緒に斉藤君も会議に出ることになったのです。会議では終始、営業部長の質問に先輩が回答し続け、斉藤君の出る幕はありません。90分間、斉藤君も営業部長と一緒に先輩の話で勉強している状態でした。

<解説>

監査法人では仕事で関わる人はクライアントの方々で、初対面の人に会うことが多く名刺交換から仕事が始まります。また、監査とは会社から情報を集めて、その情報を会計理論に当てはめて、会計処理が正しいか否かを判断する仕事です。情報を集めるには第一にヒアリング、第二に書類確認(証憑突合等)を行います。ヒアリングは会社の仕組みを理解し、第二の手続きである書類確認をやりやすくするための重要な手続きです。したがって、多勢に無勢の状況で、しかも初対面の年上の部長から有用な情報を引き出せる「インプットのためのコミュニケーション能力」が求められます。

事業会社では座席が固定されていることもあり、いつでも経理部員と話せるため予定外の会議(打合せ)が多いです。突然営業部長がやってきて質問タイムが始まります。ただし、会社に営業部長は一人ですから初対面は最初だけで多くは知っている人との打ち合わせとなります。また、経理部は社内の数字に関する情報をすべて持っているので、他部署から質問がたくさんきます。去年の売上はいくらか?売掛金は回収されているか?会計処理はどうすればよいか?多種多様な質問に対して適切な回答が必要です。したがって、インプットより「アウトプットのためのコミュニケーション能力」が求められていると思います。

コミュニケーション能力といってもインプットとアウトプットは大きく異なります。どちらも難しいことですが、インプットは決まった質問をすれば良いので新人でもやりやすく、アウトプットは何を質問されるか分かりませんから新人には難しくなります。今回も斉藤君は先輩の横で話を聞いているにとどまっていますが、いずれ特定の分野では先輩より他部署の人から信頼され、斉藤君を御指名で質問する人が現れます。非常に嬉しい瞬間です。

AM 12:00

キンコーンカーンコーン!チャイムが鳴りました。ランチの時間です(実際にチャイムが鳴る会社も意外と多いです)。

朝日君はいつもと同じように監査チームの先輩達と一緒にランチに出ました。(昔はクライアントの方とお昼をご一緒する機会も多かったと聞きますが現在はほとんどありません。)ランチの話題は今夜の飲み会。しかし、先輩の携帯電話がしょっちゅう鳴って話が中断します。携帯電話を持っているので、クライアントに頼られている先輩にはいつでも質問電話がかかってくるのです。

一方の斉藤君は今日は誰と食べようかな・・・斉藤君は迷ったあげく仲の良い秘書課の人と一緒にランチに出ました。斉藤君は固定電話が座席にありますので携帯電話を貸与されていません。落ち着いてランチを楽しむことが出来ました。

<解説>

監査法人ではランチを食べに行く相手の選択肢は監査チーム以外だと、クライアントの方しかいませんので、ほぼ監査チームでランチを食べます。また、常にクライアントに訪問する仕事ですので携帯電話又はPHSを貸与されます。一方で事業会社では総務部や人事部も含めるとフロアにたくさん知り合いがいることになります。いつも経理部内の上司・先輩と一緒というわけではなく、色々な人と一緒にランチに行くことが社内情報を得るための、ある意味重要な場となります。また、最近はPHSを貸与する会社もありますが、基本的には座席で仕事をしていますので固定電話があれば十分です。

PM 13:00

午後の朝日君の仕事は午前中の「ヒアリングメモの作成」及び「証憑突合のためのサンプル選び」です。ここでも事前準備が役に立ちました。ヒアリングに際しては質問事項を明確にし、質問事項ごとに回答を書けるアンケート用紙のようなものを作成したため、回答欄の走り書きをパソコンで清書するだけですみました。このパソコンで清書したヒアリングメモが監査調書の1ページとなるわけです。ヒアリングの結果、A社で固定資産の実在性を確認するためには固定資産台帳(BSに固定資産として計上されているものの明細)を入手して、ここからサンプルを抽出し、注文書・納品書・請求書を確認すればよいことが分かりました。朝日君は経理課長に固定資産台帳を依頼し、最近取得した製造機械をサンプルとして抽出し、その製造機械についての注文書・納品書・請求書を経理課長に依頼しました。

一方の斉藤君の仕事は来週行われる社内へ向けての「決算手続きの説明会資料」の作成です。まず、昨年の資料を参考にしながら今年のカレンダーで決算スケジュールを検討し、4月10日までに帳簿を締め、4月30日に決算発表を行うというスケジュール案を作成しました。決算スケジュールは決算作業を行うにあたり非常に重要なものです。斉藤君の作成した決算スケジュール案は先輩・上司のチェックを経たうえで取締役会で承認されることになります。次に今回の決算の注意事項をまとめます。当期から遡及修正が適用されることになるため、そもそも遡及修正とは何なのか?を経理を知らない営業部や総務部に理解してもらうよう分かりやすい資料を作成しなければなりません。斉藤君は会計監査六法を見ながら、なんとか説明会資料の分担箇所を作成し先輩に提出しました。

<解説>

監査法人でも事業会社でも業務の多くが書類作成であることは同じです。書類は成果物とも呼ばれ、監査法人であれば監査調書、事業会社であれば各種の資料(今回は決算スケジュールや説明会資料)となります。これらの書類を会計基準、会社法及び監査手続等の専門的な知識や技術を駆使して作成することになります。したがって、両者ともに「情報を効率よく収集する能力」及び「収集した情報を分かりやすくまとめる能力」が必要です。

PM 5:30

そろそろ業務時間が終了に近づいてきました。

朝日君は先輩から指示されていた業務はすべて終了しました。監査チームの他のメンバーも分担した業務が終了したようで、現場をまとめるインチャージ(主査)の「じゃあ、そろそろ帰ろうか」を合図に後片付けが始まりました。次は4月中旬に期末監査に訪問し、朝日君は先ほど依頼した製造機械の証憑を入手して監査手続を実施することになります。それまでは怖い先輩とも会うことはありません。仕事を終えた朝日君はホッとすると同時に充実感を得て、飲み会に向かいました。

斉藤君も今日の指示された仕事をほぼ終えました。実は朝の先輩からの10通のメールは斉藤君が今日やる業務の指示メールだったのです。ただ、今夜の斉藤君には飲み会がなかったため決算説明資料の作成中に理解が浅いと感じた遡及修正に関する会計基準を読み直すことにしました。しばらくして気が付くと周りの先輩たちは一人ずつ帰ってフロアには斉藤君一人です。斉藤君も家へ帰ることにしましたが明日も当然同じ席に座るため片手に新聞だけを持った身軽な装いです。

<解説>

監査法人の場合はクライアントで仕事をしていますので、業務が終わった人から一人ずつ帰るのではなく監査チームがまとまって全員で会社から失礼することが多いです。一方の事業会社では24時間自分の座席を使用できますので、皆で帰る必要はなく、それぞれが自分の都合の良いタイミングで帰宅します。

最後に・・・

監査法人勤務と企業内会計士の大きな違いは、「働く場所」です。毎日が異なるクライアントに行く監査法人勤務といつも同じ自分の座席で仕事をする企業内会計士。ここから生まれる「働き方」の違いは非常に大きいと思います。今回はあえて期末決算中ではなく期末決算前のタイミングを選び、業務内容以外の「働き方の違い」がイメージできることを目的にしました。当然業務内容にも違いはたくさんありますが、本質的な部分は同じです。むしろ就職ということを考えた時の大きな要素である「働き方」についてイメージを持ってもらい就職先を選択する際の参考としていただけると幸いです。

監査法人勤務

(朝日君)

企業内会計士

(斉藤君)

AM7:30

出勤時間

若干遅い

(9時30分~10時が多い)

早い

(8時00分~9時30分)

座席

監査法人に自分の席はなくフリー

クライアント先でも多くは会議室のため自分の席はない。

自分の席・机がある。

上司

たくさんいる

一人

AM9:30

パソコン

ノートパソコンを貸与

多くはデスクトップパソコン

AM10:00

上司との働き方

一人でヒアリングや現場に行くことも多い

上司や先輩と一緒に会議に出ることが多い

仕事で関わる人

クライアント

社内の人

仕事の生まれ方

監査計画に従って働く

計画もあるが突発的な仕事も多い

能力

インプットのためのコミュニケーション能力

アウトプットのためのコミュニケーション能力

AM12:00

ランチ

チーム全員で行く

部署内や他部署の色々な人と行く。

携帯電話

PHSを貸与

最近はPHSを貸与する会社も多いが、固定電話が基本

PM13:00

業務内容

書類作成

能力

情報を効率よく収集する能力

収集した情報を分かりやすくまとめる能力

PM17:30

業務終了時間

チーム全員で帰る

別々に帰る